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秋田地方裁判所 昭和54年(ワ)206号 判決 1980年12月24日

原告

和賀逸子

ほか二名

被告

岩井川清

ほか三名

主文

一  被告岩井川清及び同黒沢利信は、各自、原告和賀逸子に対し金六〇〇万円、原告和賀淳子及び同和賀剛に対し各金五五〇万円、並びに右各金員に対する昭和五三年一月二日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの被告岩井川清及び同黒沢利信に対するその余の請求並びにその余の被告らに対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告らと被告岩井川清及び同黒沢利信との間においては、原告らに生じた費用の一〇分の四を右被告らの負担とし、その余は各自の負担とし、原告らとその余の被告らとの間においては、全部原告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告和賀逸子に対し金七三三万三三三四円、原告和賀淳子及び同和賀剛に対し各金六八三万三三三三円並びに右各金員に対する昭和五三年一月二日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁(被告ら)

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

訴外亡和賀信市は、昭和五三年一月一日午前二時五分ころ、秋田県平鹿郡平鹿町醍醐字街道下四三番地先国道を自転車に乗り進行中、被告岩井川清(以下、単に「被告清」という。)の運転する普通乗用自動車(以下「加害車両」という。)に後方から激突され、頸髄損傷により即死した(以下「本件事故」という。)。

2  被告らの責任

(一) 被告清

被告清は、自己所有の加害車両を、酒気を帯びアルコールの影響で正常な運転ができない状態で、時速約九五キロメートルの高速度で走行させた過失により、前方を同一方向に進行中の和賀信市の発見が遅れ、本件事故を発生させたものであり、同被告には自動車損害賠償保障法三条、民法七〇九条に基づく責任がある。

(二) 被告岩井川照子

(1) 被告岩井川照子(以下、単に「被告照子」という。)は、被告清の実母であり、本件事故当時、未成年であつた同被告の監督義務者であつた。

(2) 被告照子は、本件事故の前日である昭和五二年一二月三一日の夜、秋田市から自動車を運転して帰宅した被告清に年越しの料理を用意して飲酒させた後、酩酊した同被告が外出しようとしたのを知つたのであるから、同被告に対し、自動車を運転しないように注意する監督義務があつたのにこれを怠つた。

(3) 本件事故は、被告照子の右監督義務違反の結果、被告清が前記(一)のとおり酒酔い運転をして発生させたものであるから、被告照子には民法七〇九条に基づく責任がある。

(三) 被告田沢正

(1) 被告田沢正は、本件事故当時、書籍総合販売を業とし、被告清をセールスマンとして雇傭して、書籍の販売・配達を担当させていた。

(2) 本件事故は、被告清が、湯沢市の実家にいつたん帰宅した後、横手市の客に注文を受けた書籍を配達するために自動車で出かけた帰途に前記(一)のとおり発生させたものであり、被告田沢の事業の執行についてなされた不法行為であるから、同被告には民法七一五条に基づく責任がある。

(四) 被告黒沢利信

被告黒沢利信は、本件事故当夜、友人である被告清が飲酒酩酊して自動車を運転していたことを知りながら同被告に運転を依頼し、途中同被告に飲酒を勧めたり共に飲酒したりしたうえ、同被告に加害車両を運転させた。

本件事故は、被告黒沢の右過失により発生したものであり、同被告には、共同不法行為者として民法七一九条に基づく責任がある。

3  原告らの損害

本件事故により次の損害が生じた。

(一) 和賀信市の損害

(1) 逸失利益 二〇〇〇万円

和賀信市は、本件事故当時四九歳であつたが、一町七反歩の田畑を耕作して農業を営む傍ら、農閑期には東京に出稼ぎに行つており、四九歳男子の全国平均賃金を下回らない収入を得ていた。当時の四九歳男子の全国平均賃金(月額二六万四〇〇〇円、年額三一六万八〇〇〇円)から生活費として三割を控除し、これに、六七歳まで就労可能として一八年間の年別ホフマン係数(一二・六〇三)を乗じると二七九四万八四一二円となるから、和賀信市の死亡による逸失利益の本件事故当時の現価は二〇〇〇万円を下回らない。

(2) 慰籍料 一五〇〇万円

和賀信市は、妻と二人の子を有する四人家族の支柱として働いていたもので、本件事故の態様を考慮すれば、同人の死亡による精神的苦痛に対する慰籍料としては一五〇〇万円が相当である。

(3) 原告らの相続

和賀信市の死亡により、同人の妻である原告和賀逸子並びに同人の子である原告和賀淳子及び同和賀剛の三名が同人を相続した(相続分各三分の一)。

(二) 葬儀料 五〇万円

原告和賀逸子が支出した。

(三) 弁護士費用 五〇万円

原告らは、被告らが本件事故に基づく損害賠償請求に応じないため、やむなく弁護士高橋隆に訴訟手続を委任し、着手金として五〇万円を支払つた(各原告が三分の一ずつ負担)。

4  損害の填補

原告らは、本件事故につき、自動車損害賠償責任保険から一五〇〇万円を受領した(各原告の損害に五〇〇万円ずつ充当)。

5  結論

よつて、被告ら各自に対し、原告和賀淳子及び同和賀剛は、それぞれ、前記3の(一)の(1)及び(2)の金額と3の(三)の金額の合計額の三分の一から4の五〇〇万円を控除した残額である六八三万三三三三円、原告和賀逸子は、右金額に更に前記3の(二)の五〇万円を加えた七三三万三三三四円、並びに右各金員に対する弁済期の後である昭和五三年一月二日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求の原因に対する認否

1  被告清

(一) 請求の原因1の事実は認める。

(二) 同2の(一)の事実は認める。

(三) 同3のうち(一)の(3)の事実は認めるが、その余は争う。

(四) 同4の事実は認める。

2  被告照子

(一) 請求の原因1の事実は認める。

(二) 同2の(一)の事実は知らない。(二)のうち、(1)の事実は認めるが、(2)及び(3)は争う。

被告清は、本件事故当時既に高等学校を卒業して就職しており、間もなく成年に達するものであり、被告照子は、被告清が飲酒後自動車を運転することは予測もせず、運転を開始するのを現認してもいないのであるから、同被告が未成年であつたとはいえ、被告照子に本件事故前被告清に対し飲酒運転をしないよう注意する義務があつたとは言えない。

(三) 同3のうち、(一)の(3)の事実は認めるが、その余は争う。

(四) 同4の事実は認める。

3  被告田沢

(一) 請求の原因1の事実は認める。

(二) 同2の(三)のうち、(1)の事実は認めるが(2)の事実は否認する。

被告清が加害車両を運転して湯沢市の家を出たのは、同棲していた女友達の横手市の実家に遊びに行くためであり、たまたま同家に書籍を注文した人がいたために、加害車両に積んであつた書籍を配達したに過ぎず、更にその後、同被告は、家に戻らずに、友人と遊ぶために湯沢市の喫茶店に行き、再び横手市に向かう途中で本件事故を起こしたものであるから、本件事故は、被告田沢の事業の執行につき発生したものではない。

(三) 同3のうち、(一)の(3)の事実は認めるが、その余の事実は知らない。

(四) 同4の事実は知らない。

4  被告黒沢

(一) 請求の原因1の事実は認める。

(二) 同2の(四)のうち、被告清が友人であり、本件事故当時、加害車両に同乗していたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(三) 同3のうち、(一)の(3)の事実は認めるが、その余の事実は知らない。

(四) 同4の事実は認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生について

請求の原因1の事実については当事者間に争いがない。

二  被告らの責任について

1  事故に至る経緯

成立に争いのない甲第四ないし第六号証、第一一号証、第一六ないし第一八号証、被告黒沢利信及び同岩井川清各本人尋問の結果を総合すれば、次の各事実を認めることができる。

被告清は、昭和五二年一二月三一日午後八時ころ、当時の秋田市内の住居から加害車両に乗つて湯沢市内の実家に帰り、午後九時三〇分ころまでの間に日本酒をちようしで四本半位飲み、テレビを見たりした後、翌昭和五三年一月一日の午前零時過ぎころ、加害車両を運転して実家を出発し、当時秋田市で同棲していた婚約者の兄が経営する横手市内の飲食店「ユアーズ」に向かい、午前零時三〇分ころ同店に到着し、右経営者の妻から注文を受けていた書籍を配達したが、同店で酒を飲んでいた高校時代からの友人である被告黒沢と出会つた。そして、被告黒沢が湯沢市内の喫茶店「ねぎし」で友人である訴外松田与孝と会う約束があつたことから被告清を誘い、両被告は、被告清が「ユアーズ」に到着してから一〇分位の後、同被告の運転する加害車両で同店を出発し、同日午前一時過ぎころ右「ねぎし」に到着し、女友達と同店に来ていた松田と会つた。同店で被告清及び同黒沢は、それぞれ日本酒をコツプで一杯飲み、被告清はその他にカレーライスを食べた後、午前二時ころ、両被告は、被告清の運転する加害車両に乗つて同店を出発し、再び被告黒沢の住居のある横手市に向かつたが、その途中、本件事故が発生した。

以上のとおりであり、右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  被告清の責任

請求の原因2の(一)の事実については原告らと被告清の間に争いがなく、右事実によれば、同被告は、加害車両の運行供用者であるとともに、その過失により本件事故を発生させたものであるから、原告らに生じた後記三の損害を賠償する義務がある。

3  被告照子の責任

(一)  本件事故当時、被告清が未成年者であり、被告照子がその実母として被告清の監督義務者であつたことについては、原告らと被告照子の間に争いがない。

(二)  よつて、本件事故が被告照子の監督義務懈怠によつて生じたものか否かにつき判断すると、被告清が湯沢市の実家で飲酒した後に加害車両を運転して外出したことは前記1で認定のとおりであり、前記甲第四号証、第一七号証によれば、被告照子は、秋田市から帰つた被告清に対し、年越しの料理とともに日本酒をちようしに二本出したこと、その後、被告照子は、午前零時過ぎに被告清が外出することに気づき、また、同被告がそのころには飲酒の影響で顔が赤くなつており、運転はできない状態にあつたことを認識していたが、同被告に対し、自動車を運転しないようにとの注意はしなかつたことが認められる。しかしながら、他方、前記甲第四号証、第一八号証及び被告岩井川清本人尋問の結果によれば、被告照子は、被告清が加害車両に乗つて外出するところは現認しておらず、同被告が飲酒していなかつた兄の寿と同時に外出したことから、同人の車に乗つて行くものと思つたこと、被告清には本件事故前にも交通事故歴、交通違反歴があり、被告照子もそれを知つていたが、被告清に飲酒運転の前科前歴はなかつたことがそれぞれ認められ、右事実に、被告清は昭和三三年五月一九日生まれであり(この事実は成立に争いのない甲第一号証により認めることができる。)本件事故当時、未成年者であつたとはいえ、四か月余り後には成年に達する身であり、通常既に十分の判断能力を有すると考えられることを総合勘案すれば、前記認定のように、被告照子が被告清に酒を供し、その後、酒に酔つた同被告が外出することを知つたとしても、被告照子に、被告清の監督義務者として、同被告に対し自動車の運転をしないように注意を与える義務があつたということはできない。

よつて、右義務の存在を前提として被告照子の不法行為責任をいう原告らの主張はその余の点につき判断するまでもなく理由がない。

4  被告田沢の責任

(一)  本件事故当時、被告田沢が書籍総合販売を業とし、その事業のため被告清を雇傭していたことについては原告らと被告田沢の間に争いがない。

(二)  よつて、本件事故が被告田沢の右事業の執行につき発生したものであるか否かにつき判断すると、被告清が湯沢市内の実家で飲酒した後、昭和五三年一月一日午前零時過ぎころ、加害車両を運転して横手市内の飲食店「ユアーズ」に向かい、同店の経営者の妻から注文を受けていた書籍を配達したことは前記1で認定のとおりであり、被告田沢正及び同岩井川清各本人尋問の結果によれば、当時、被告田沢の書籍販売の営業上、注文を受けた書籍のうち約一割は直接注文者宅に配達していたこと、被告清は、本件事故の一週間ほど前に、「ユアーズ」の経営者の妻から注文を受けた書籍を、正月休みに実家に帰る途中に届ける意図で秋田市内の住居に持ち帰り、昭和五二年一二月三一日に右住居から湯沢市に向かう際、右書籍を加害車両に積み込んだが、横手市内の「ユアーズ」に立ち寄つた際に右書籍を渡すのを忘れたことがそれぞれ認められ、更に、前記甲第一六号証、第一八号証及び被告岩井川清本人尋問の結果によれば、被告清が前記のように湯沢市内の実家から外出した目的の一つは、右書籍を「ユアーズ」に届けることにあつたことが認められる。しかしながら、他方、本件事故は正月休みの深夜に発生したものであり、被告清が書籍を届けた「ユアーズ」は同被告と同棲中の婚約者の兄の経営にかかること、被告清は、右「ユアーズ」を出た後、直ちに湯沢市内の実家には戻らず、被告黒沢の誘いにより松田与孝と落ち合うため同市内の喫茶店「ねぎし」に行き、そこから再び横手市に向かう途中、「ユアーズ」を出てから約一時間半の後に本件事故を発生させたことは前記1で認定のとおりであり、右事実を総合考慮すれば、前記認定の、被告清が実家を出た目的の一つが書籍の配達にあつた事実等から、被告清が被告田沢の事業の執行につき本件事故を発生させたということはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

よつて、原告らの被告田沢に対する、使用者責任に基づく損害賠償請求はその余の点を判断するまでもなく理由がない。

5  被告黒沢の責任

前記甲第一号証、第一六号証、第一八号証、成立に争いのない甲第三号証、第七号証、第一二号証、第一三号証に前記1で認定の事実を総合すると、本件事故は、被告清が飲酒のうえアルコールの影響で正常な運転ができない状態で、時速約九五キロメートルで加害車両を走行させた結果、和賀信市の発見が遅れたことにより発生したことが認められ、本件事故当時、被告黒沢が加害車両に同乗していたことについては原告らと被告黒沢の間に争いがない。そして、被告清が本件事故を発生させるまでの経緯は前記1で認定のとおりであり、被告黒沢は、横手市内の「ユアーズ」で出会つた被告清を湯沢市内の「ねぎし」に誘つて同店まで加害車両に同乗し、更に同店から加害車両に同乗して自己の居住する横手市に向かつていたものであるところ、被告清は、「ユアーズ」で被告黒沢に会つた際、既に日本酒をちようしに四本半ほど飲んでおり、同被告と会つた後は「ねぎし」で日本酒をコツプに一杯飲んだだけではあるが、前記甲第四ないし第六号証、第一八号証及び被告岩井川清本人尋問の結果によれば、被告清が実家を出発する際には酔いで顔が赤くなつており、「ねぎし」に到着したときにも同被告がかなり酒に酔つていることが外観上認識できたこと、本件事故後の検査では、同被告の呼気一リツトルにつき〇・五ミリグラム以上のアルコールが検出されたこと、同被告は、「ユアーズ」で被告黒沢に会つた際「少し飲んでいる」旨告げたことがそれぞれ認められ、右事実を総合すれば、被告黒沢は、被告清が相当程度酒に酔つていることを認識しながら、同被告を「ねぎし」に誘つたうえ加害車両に同乗して同店に赴き、その後更に横手市に向かつたと認めることができる。もつとも、被告黒沢利信本人は、被告清が酔つていることには気づかなかつた旨供述し、前記甲第一一号証中にも同旨の供述があるが、右各供述は、当時、被告黒沢自身が相当酒に酔つていたこと(この事実は被告黒沢利信本人尋問の結果により認めることができる。)を考慮してもたやすく信用できない。

そうすると被告黒沢は、本件事故時における被告清の酒酔い運転に加功したというべきであり、右酒酔い運転が本件事故の原因となつたことは前記認定のとおりであるから、被告黒沢は、その過失により被告清と関連共同して本件事故を発生させたものとして、原告らに生じた後記三の損害を賠償する義務がある。

三  損害について

1  和賀信市の損害

(一)  逸失利益

原告和賀逸子本人尋問の結果によれば、和賀信市は、本件事故による死亡時四九歳であり、生前妻である原告和賀逸子と二人で、一町七反歩の田で稲を、三反歩の果樹園でりんごをそれぞれ栽培する傍ら、毎年一一月ころから翌年四月ころまでの間は出稼ぎをしていたことが認められる。そして成立につき、原告らと被告清及び同黒沢の間に争いのない甲第二〇号証によれば、和賀信市は、昭和五二年度において、米とりんごの売渡代金として合計四一二万六一一六円を得たことが認められ、これから、経費を三割とし、本人の寄与率を七割として同年度における和賀信市の農業所得を推計すると二〇二万一七九六円となり、また、成立につき原告らと被告清及び同黒沢の間に争いのない甲第二一ないし第二六号証、原告らと被告清の間では成立に争いがなく、被告黒沢に関しては原告和賀逸子本人尋問の結果により成立の真正が認められる甲第二八号証の一、二によれば、和賀信市は、昭和五一年一一月から昭和五二年四月までの間に、出稼ぎによる給与所得として合計七三万七四〇三円を得ていたことが認められるから、和賀信市の本件事故当時の年間所得額は、右両所得の合計額二七五万九一九九円を下回らなかつたものと推認できる。そして、前記のとおり、同人の死亡時の年齢は四九歳であり、本件事故がなければ六七歳まで就労が可能であつたと考えられるから、右推計年間所得額から生活費として四割を控除したうえ、一八年間の年別ホフマン係数一二・六〇三を乗じると、二〇八六万四五一〇円となる。従つて、和賀信市の本件事故による逸失利益の右事故時の現価は、二〇〇〇万円を下回らないことが明らかである。

(二)  慰藉料

原告和賀逸子本人尋問の結果によれば、和賀信市は、妻である原告和賀逸子、子である原告和賀淳子及び和賀剛とともに生活し、四人家族の支柱として働いていたこと、原告和賀剛は、本件事故により父信市が死亡した結果大学進学を断念せざるをえなくなつたことが認められ、右事実に、前記認定の本件事故の態様、和賀信市の年齢等を総合考慮すれば、和賀信市の本件事故による死亡に対する慰藉料としては一一〇〇万円が相当である。

(三)  原告らの相続

請求の原因3の(一)の(3)の事実については原告らと被告清及び同黒沢の間に争いがないから、原告らは、和賀信市の右(一)と(二)の損害賠償請求権の各三分の一をそれぞれ相続したこととなる。

2  葬儀料

前記認定の諸事実に照らせば、本件事故による和賀信市の死亡の結果、その妻である原告和賀逸子が支出せざるをえなくなつた葬儀料は五〇万円と認めるのが相当である。

3  弁護士費用

本件事故の結果、原告らが被告清及び同黒沢に対し損害賠償請求訴訟として本件訴訟を提起せざるをえなくなり、弁護士高橋隆にその訴訟代理を委任したことは訴訟上明らかであり、本件訴訟の事案等を考慮すれば、同弁護士に支払うべき着手金としては合計五〇万円が相当であり、右金額は、原告らが各三分の一負担すべきものである。

四  損害の填補後の損害額について

請求の原因4の事実については原告らと被告清及び同黒沢との間に争いがないから、原告らに生じた右三の損害額からそれぞれ五〇〇万円を控除すべきであり、右控除後の各原告の損害額は次のとおりとなる。

1  原告和賀淳子及び同和賀剛 各五五〇万円

三の1の(一)、(二)と3の金額の合計額の三分の一から五〇〇万円を控除

2  原告和賀逸子 六〇〇万円

右1の金額に三の2の金額を加算

五  結論

以上の次第により原告らの本訴請求は、被告清及び同黒沢に対し、原告和賀逸子が六〇〇万円、原告和賀淳子及び同和賀剛が各五五〇万円、並びに右各金員に対する弁済期の後である昭和五三年一月二日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各自支払いを求める限度で理由があるから認容し、右被告らに対するその余の請求及びその余の被告らに対する請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木健太)

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